第12回若手部会を開催いたしました。今回は、会員2名による研究報告でした。以下にその概要を報告いたします。
日時:2019年6月1日(土)14:00〜17:30
報告①
題目:「古賀十二郎の洋学史研究―『長崎市史』編集委員としての活動を通じて―」
本報告では、地域史料の保存と開港350周年記念事業のため実現された『長崎市史』の編纂事業について、編纂委員の一人であった古賀十二郎(1871-1954)に焦点を当てた考察がなされた。古賀は、『長崎市史』のなかでもとりわけ評判を得た風俗編及び洋学編の編纂を担うなど、同書編纂事業において大きな役割を果たしたことが紹介された。さらに、事業期間の遅延や財政上の問題から批判にさらされた『長崎市史』の編纂事業であったが、東京帝国大学史料編纂掛を中心としたアカデミズム史学と相互に影響を与え合うこととなり、その後の古賀の研究活動に大きく寄与したことが指摘された。
質疑応答では、『長崎市史』編纂にあたっての編集委員選定の方法や、資料収集とその後の処置についての質問が出た。また、昭和期に計画が大幅に遅延した理由について疑問が挙げられ、発表者からは報酬形態の変化が一因ではないかとの答えがあった。このことについてフロアからは、太平洋戦争の影響もあるのではないかとの指摘がなされた。
報告②
題目:「上智学院第2代、第7代理事長クラウス・ルーメルの見た学生運動 ―上智大学史資料室所蔵資料を用いた学生運動研究の可能性―」
本報告では、上智大学における学生運動について、ドイツ人イエズス会士クラウス・ルーメル(1916-2011)が寄贈し、現在上智大学史資料室に所蔵されている「ルーメル・コレクション」を用いた考察がなされた。上智大学の学生運動について、当時の雑誌報道などによる一般的な認識と、ルーメルの学生運動に対する認識が対照され、期間に認識の相違があることなどが指摘されたほか、ルーメルが学生運動のメカニズムを分析し、対話により学生を導くことによって学生運動を収束させようとしていたことが明らかにされた。また、「ルーメル・コレクション」から、当時の学生が作成したビラや、校舎の被害状況の記録など多岐にわたる資料が紹介された。
質疑応答では、ドイツの学生運動について質問が出たほか、大学史研究においては経営史と教育史を分けて論じるべきである、との意見があった。さらに、学生運動に参加した上智大学生について、他大学の学生とどのような思想的交渉があったかということも重要な論点に成り得る、との指摘もなされた。
(文・谷地彩)