洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【第16回若手部会】内容報告

 洋学史学会若手部会2月例会(第16回)を開催いたしました。今回は、会員2名による研究報告でした。以下にその概要を報告いたします。

日時:2020年2月1日(土)14:00~18:00
会場:電気通信大学東1号館8階806会議室

報告①

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山本瑞穂(東京大学大学院修士課程)
「中立国傭船期の異国船情報」

 本報告では、享和3年(1803)に来航した二艘のイギリス系商船、フレデリック号とナガサキ号の事例から、長崎における異国船対応の様相を検討した。双方の事例から、長崎奉行所による情報管理、オランダ通詞による隠蔽工作、長崎警備を担当した諸藩、特に佐賀藩を中心とした情報収集の様相、オランダ商館による保身の動向が明らかになった。この議論から中立国傭船期が、日本貿易継続のための傭船派遣が長崎に危機をもたらしつつも、アメリカやイギリスの自由貿易商人にとっては市場開拓の機会となった時期だと指摘された。

 報告後の質疑では、今後の課題、特に国際法における傭船の位置付けについての展望、オランダ通詞がフランス人と虚偽の報告をした理由、九州諸藩における長崎警備の実態などが議論された。

 

報告②

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臺由子(明治大学大学院博士後期課程)
「ドイツのPfennig-Magazin,オランダのNederlandsch Magazijn,そして日本の『官板 玉石志林』の関係性に関する一考察」

 本報告では、廉価な労働者階級向け教養雑誌である、ドイツのPfenning-Magazin (以下PfM)と、オランダのNederlandsch Magazijn (以下NM)に共通するパリ自然史博物館についての記事と、NMを翻訳した箕作阮甫の翻訳の能力に焦点をあてた。本報告を通して、イギリスで刊行されたPenny Magazine以降続く教養雑誌の系統の中に、箕作の『玉石志林』を位置付ける可能性、箕作の翻訳における姿勢と苦労などが示された。

 フロアからは、原文とされるドイツ語のニュアンスに近い翻訳を施そうとする箕作の翻訳センスの高さが指摘された。また、今後の展望の一つとして箕作が何らかの指示を受けて翻訳を行ったのか、主体的に翻訳を行ったのかという、箕作の執筆背景についてコメントがされた。

                                (文・武正泰史)