洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【6月オンライン例会】内容報告

 洋学史学会若手部会初の試みとして、隔週土曜日にオンライン例会を開催いたしました。全国各地に居住する会員が参集できたのも、オンライン例会ならではなのかもしれません。例会後に開催した茶話会(情報交換会)も、会員同士が久ぶりに顔をあわせ、近況報告などが行われました。少しずつではありますが、通常の例会の姿を取り戻しつつあります。
 以下に例会の概要を報告いたします。

《6月オンライン例会①》
日時:2020年6月6日(土)14:00~15:00
報告者:武正泰史(東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程)
報告タイトル:「和算書『拾璣算法』に関する検討―秘伝とその普及について」

 本報告は、和算書『拾璣算法』(1766年自序・1769年刊)について、本書に記される秘伝の実態や出版状況などを解明することを目的としたものであった。
 まず、久留米藩士・吉村光高『計子秘解』(1770年成)の自序を読み解くことで、『拾璣算法』の編著者・豊田文景は、久留米藩第7代藩主・有馬頼徸である可能性が極めて高いことを実証的に示した。また『拾璣算法』に記される秘伝「点竄術」の大部分は、頼徸『点竄探矩法』(1747年成)からの引用であることや、頼徸は入江修敬から点竄術を学んだであろうことを指摘した。さらに『拾璣算法』の諸本50点を書誌調査した上で、江戸・須原屋茂兵衛を中心とする初版本から京都・天王寺屋市郎兵衛を中心とする求版本に至るまで、その出版状況の流れを整理・報告し、本書の需要の大きさを確認した。
 質疑応答では、和算史における『拾璣算法』の位置づけや意義、読者層の問題、秘伝公開による周囲の反応、頼徸の学習歴に関する質問がなされた。また、『拾璣算法』を出版した頼徸の意図や、本書を売り出す際の出版戦略(出版ルート)に関することなども議論された。                                      
                              (文・吉田宰)

《6月オンライン例会②》

日時:2020年6月20日(土)14:00~15:00
報告者:阿部大地(佐賀県立博物館学芸員)
報告タイトル:「ウィーン万国博覧会に向けた出品準備と『産物大略』の影響」

 1872年正月、明治新政府はウィーン万博への展示品を収集するため、太政官布告によって、全国に資料の収集を求めた。その際、博覧会事務局が「産物大略」を作成し、各地で収集されるべき品々のリストを各県に配布した。本報告は、「産物大略」を送付された各府県が、いかにその命に応えようとしたかを、いくつかの県の事例を取り上げながら明らかにしたものであった。
 報告後の質疑では、「産物大略」のあとに編纂された『府県物産志』などの成立時期、「産物大略」作成時に参照された情報、ウィーン万博における大隈重信・佐野常民の位置づけ、「産物大略」に占める鉱物の多さの理由、展示品に関するキャプション作成の有無、「産物大略」成立後ののにどのように使われたか、本報告の博士論文全体における位置づけなどが議論された。

                             (文・藤本大士)