洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【8月オンライン例会】内容報告

 洋学史学会若手部会では8月オンライン例会を開催し、2名の会員による研究報告が行われました。以下にその概要を報告致します。

《8月オンライン例会①》
日時:8月1日(土)14:00~15:00
報告者:山本瑞穂(東京大学大学院人文社会系研究科修士課程)
報告タイトル:「文化年間の幕府周辺における日露交渉史の把握の深化―大槻玄沢『北辺探事補遺』を中心に―」

 本報告では、ロシアの日本接近においてオランダ商館が幕府に果たした役割の解明を目的として、主に元文の黒船を対象に検討がなされた。大槻玄沢は仙台藩医の立場から仙台藩の記録や宝物の調査等を利用して情報を収集し『北辺探事 補遺』をまとめ、若年寄堀田正敦にも呈上したとし、近藤重蔵が長崎の通詞から得たメモの提供を受け元文の黒船がオランダ船であるという自説の傍証ともしたと指摘する。一方、柴野栗山ら儒者たちも翻訳蘭書やオランダ商館経由の海外情報から当該期の日露交渉を把握、対応策を老中に書面で提出していたことを指摘、元文年間のオランダ商館の情報提供と蘭書輸入が文化年間の日露交渉把握の深化を可能とし、商館と幕府をつないだのは幕府に近い学者であったと結論づけた。
 報告後は研究史に関する助言、幕府の儒者が日露交渉の履歴を追っていた理由、日露交渉史という言葉の適否、新井白石・荻生徂徠らの海外情報収集との関連性、修論全体の中での本報告の位置づけ、先行研究の不足をどう更新するか等活発な質疑がなされた。

《8月オンライン例会②》
日時:8月8日(土)14:00~15:00
報告者:阿曽歩(国際基督教大学博士研究員)
報告タイトル:「大槻平泉旧蔵キリスト教関連資料に関する考察」

 本報告は仙台藩藩校の学頭を務めた大槻平泉が所蔵していたキリスト教関連資料(「蘭文旧約聖書ダニエル書」)について、その書誌や史料上の特徴を分析し、史料的意義を考察するものであった。平泉は大槻玄幹とともに長崎で志筑忠雄に蘭学を学んでいる。「蘭文旧約聖書ダニエル書」は聖書そのものではなくボイス学芸事典からの転写であること、欄外に書かれた朱書の文章が蘭文の翻訳ではないこと等が判明した。近世後期におけるキリスト教知識の受容については自然科学系書物や地理書、聖書研究等をその源泉としているが、平泉の神に対する興味関心やオランダ語能力の程度、欄外の朱書の出典等についての検討が今後の課題として挙げられた。
 報告後は史料の年代、本報告の平泉研究における位置づけ、東北という土地柄とキリスト教受容の関係性、平泉が宗教に興味を抱いたきっかけ、ロシアとの関係、仙台藩の蘭学との関係性、志筑忠雄に学んだ根拠等、様々な視点からの質問があり意見交換がなされた。

                               (文・西留いずみ)