洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【第11回若手部会】内容報告

第11回若手部会を開催いたしました。今回は、会員2名による研究報告でした。以下にその概要を報告いたします。

日時:2019年4月6日(土)14:00〜18:30

14:00〜15:00 総会

報告①

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報告者:武正泰史(東京大学大学院博士前期課程)

題目:「久留米藩主有馬頼徸と和算書『拾璣算法』について―大名の数学に迫る―」

 和算家である久留米藩七代目藩主有馬頼徸(1714~1783)はこれまで関孝和以降の数学の秘伝を世に公開した人物と評されてきたが、多くの著作に関し書誌学的研究や著作間の関連についての探究が不十分であった。それを踏まえ本報告では頼徸の著作類を一覧にして整理し、唯一の刊本である『拾璣算法』の序跋文を精査しその性質の特定を試みた。

 フロアからは同書のオリジナリティの度合いについての疑問が出され、また解説本の多さから広い流布状況も推察された。同書が豊田文景の名で執筆されていることに関しても種々質問が出たが、発表者による久留米市に現存する『藩士分限張』、『御家中略系譜』の調査からも豊田文景なる人物は発見できなかった一方で、確定的な情報も掴めていなく今後の調査を待つこととなった。また江戸での執筆作が多いことから和算の勉強環境、子弟関係についても話題に上り、頼徸の出自を考慮する必要性にも議論が及んだ。

報告②

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谷地彩(上智大学大学院博士後期課程)

題目:「タイムズ紙の記者F.ブリンクリーの伝えた明治日本―第四回内国勧業博覧会の記事をめぐって―」

 F・ブリンクリー(1841~1912)は幕末から明治末年まで日本に滞在し、工部大学校教師から英字新聞経営者兼主筆となり、後にタイムズ紙記者として明治日本を英国に精力的に紹介したが、これまで氏についての研究は少なく正当な評価を受けていなかった。本発表では第四回内国勧業博覧会について氏が書いた、日本の工業的成長と今後の日本の商業的発展を予測する記事を通し、明治日本についての貴重な紹介者として氏の活動の重要性が照射された。

 フロアからは氏と同時期に活動したサトウ、ブラック等との関係性、新聞関係の先行研究や氏が経営者兼主筆であった他紙の記事を検討する必要性等について意見が出された。日本での活動については工部大学校関係官僚の調査も提案され、また日英同盟締結期に活動した点からも、氏の記事により英国で日本評価が高まった可能性も指摘された。

                               (文・佐々木千恵)