洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【2020年12月オンライン例会】内容報告

 洋学史学会若手部会では12月オンライン例会を開催し、2名の会員による研究報告が行われました。以下にその概要を報告致します。

《12月オンライン例会①》
日時:2020年12月12日(土)14:00~15:00
報告者:濱口裕介(札幌大学女子短期大学部助教)
報告タイトル:幕末維新期における北海道改号論について

 本報告は、松浦武四郎個人の業績と見なされがちな北海道改号について、日本全体の地理認識の転換に関わる問題として、武四郎以外の改号論を含め、考察を行ったものである。
 報告者はまず、北海道改号論は近世後期の日本に存在した複数の地理像を統合し、一本の境界線を定めようとする幕末以降の中央集権体制への志向の中に位置づけられることを指摘した。次に、徳川斉昭、竹川竹斎、井上石見等による武四郎以前の北海道改号論の比較分析から、各論者により「北海道」を指示する範囲に大きな差異があること、そして、現実のアイヌの存在を意識した武四郎の撰号が特筆すべきことを指摘した。最後に、北海道への改号は、重層的な地理像を統合する意味合いがあった一方、明治以後も北海道を「蝦夷」、「北洲」等と表記する場合も少なくなく、地理像の転換は漸進的なものであったことが報告された。
 質疑では北海道改号を巡る開拓使側の記録の有無についての質問、また、武四郎以外による北海道・蝦夷地認識についての議論がなされた。

《12月オンライン例会②》
日時:2020年12月19日(土)14:00~15:00
報告者:吉岡誠也(東京大学地震研究所特任研究員)
報告タイトル:「成富清風日記」にみる明治初年清国留学の基礎的考察

 明治期の海外留学は欧米が中心であり、留学史研究においても、当時の清国留学については事実の指摘程度に留まる。それに対して本報告は、東京大学史料編纂所に所蔵されている、成富清風の日記を用い、1871(明治4)年頃の清国留学の一端を明らかにしようとしたものである。
 成富は、1838(天保9)年生まれの佐賀藩士で、藩校弘道館の分校である大野原学校へ入学した後、1864(元治元)年に昌平黌への遊学で漢学を修めた。1870(明治3)年頃から英語を学び始めた成富は、1871(明治4)年に明治新政府より清国留学を命じられ、上海におよそ2年滞在した。彼の日記からは、在清の欧米人より英語を学び、清国人から清国の公用語である官話を習うなど、留学中の学習の様子をうかがい知ることができる。また、同時期に香港に留学していた旧松江藩士岡田好成らとの交流があったことが確認できる。
 質疑では、留学中の1873(明治6)年に成富の所管が文部省から外務省へ移管されたことに関する質問や、欧米への留学が盛んになっていたにもかかわらず、欧米ではなくあえて清へ留学することの意義についての疑問が出された。また、これまでの留学史研究の手法をふまえ、同時期に留学していた他の留学生から成富の果たした役割を位置付けることができるのではないか、といった展望などが議論された。
 
                                (文・西脇彩央)