洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【内容報告】2022年2月オンライン例会

 洋学史学会若手部会では2月オンライン例会を開催し、2名の会員による研究報告が行われました。以下にその概要を報告いたします。

日時:2022年2月5日(土)14:00〜16:10

報告者①:阿曽歩(国際基督教大学博士研究員)
報告タイトル:「大槻家の「家学」に関する試論:故郷という視点から」
 
 本報告は大槻玄沢による故郷や「家」に関する記述から、彼の「家」意識を捉えようとするものである。
 「家学」とは近世日本における学問継承のあり方の一つである。従来、大槻家についての総合的研究は行われてこなかったが、大槻家の家学を明らかにすることで、蘭学史の描き方を再検討できるのではないかと考えられる。
 玄沢や彼らの息子や孫が故郷・一関(息子らは江戸生まれであるが一関を故郷と捉えていた)への強い思いがあったことは先行研究においてすでに指摘されている。今回は特に玄沢の言動に注目し、彼の故郷への思いを、単なる「ふるさと愛」といった現代的感覚ではなく、そこに一族意識・「家」意識が働いていたことを明らかにした。
 報告後は、近世日本の学者の家にも、ヨーロッパに見られるような学問を家業とする認識があるのかといった質問に対し、林家の事例などに見られることや、また大槻家の認識を今後さらに論じていきたいという応答等がなされた。


報告者②:菊地悠介(大本山永平寺学術事業推進室調査研究員・川崎市市民ミュージアム学芸スタッフ)
報告タイトル:「射和文庫における蔵書の構造と特質―特に竹川竹斎収集の翻訳書について―」
 
 本報告は、伊勢の竹川竹斎が創設した射和文庫の構成や書物の来歴について明らかにしようとしたものである。
 射和文庫には翻訳書や洋書が多く含まれているが、従来の研究ではこれらの書物は取り上げられてこなかった。このような翻訳書・洋書による情報収集の過程を明らかにすることは、知識の伝播とその活用の実態(目的や地域への影響)を知る上で重要である。
 射和文庫には幅広い分野の翻訳書が含まれる。またその内容から、文化・文政期から海外情報を広く集めていることや、入手経路が判明するものでは、勝海舟からの寄贈書が多いことも特徴として挙げられる。そしてこの勝海舟との繋がりは、書物の寄贈だけでなく、竹川竹斎の商売ほかでのネットワークとして活きていたことが指摘できる。
 報告後は、蔵書研究として他家との比較の必要性への指摘や、竹川竹斎の関心が本草学から海防へ移ることを踏まえ、竹斎が書物を入手した時期に着目してはという提案もなされた。

                             (文・西脇彩央)