洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【内容報告】2024年4月例会

 洋学史学会若手部会では4月例会を対面・オンライン併用のハイブリッド形式で開催しました。以下、その概要を報告いたします。

日時:2024年4月6日(土)14:00〜17:45
開催場所:対面(電気通信大学)、オンライン(Zoom)

報告者①:芦田雄樹(東京工業大学環境・社会理工学院社会・人間科学系社会・人間科学コース 修士課程)
報告タイトル:「「赤松小三郎」の語られ方―没後から戦前期までを対象に―」
 本報告は、上田藩士・赤松小三郎(1831~1867)について、現代の先行研究および幕末から戦前期の赤松小三郎の語られ方を通して、その情報・論点の整理を行おうとするものであった。
 報告者によると、赤松小三郎は、議会制度の幕府への建白、兵学書の翻訳などの事績がある一方で、その存在があまり知られておらず、史料が少ないため、具体的な行動履歴については不確定なことが多いという。『上田郷友会月報』や新聞記事などから赤松小三郎の語られ方を分析すると、暗殺された当時には注目されていたらしいことや、兵学に関する講義内容などが垣間見える一方で、行動履歴については、糸口がいくつか集まるものの、一次史料での裏付けが課題であることが示された。
 参加者からは、赤松の語学知識についての質問や、史料の記載内容の扱いの難しさなどについての意見が出された。

報告者②:河瀬真弥(京都大学非常勤講師)
報告タイトル:「『日本大辞書』における音義説の位置」
 本報告は、小説家としても知られる山田美妙の『日本大辞書』を対象とし、なかでも辞書の中で言及される音義説に注目し、その特徴を考察するものであった。
 音義説とは、例えばナ行の音には「滑らかな」という意味があるとするような語源理論で、現代では非科学的とされるものである。音義説のうち行ごとに意味を与える一行一義説として代表的な平田篤胤『古史本辞経』の記述と比較することで、平田篤胤流の音義説を受容していたことを示すとともに、その国粋主義が脱色されていることを示した。『日本大辞書』の音義説的説明に関連する事象として、山田美妙自身がもつ言語の法則への探求心や、音韻・音調を重視する態度があったことを指摘した。 
 参加者からは、『日本大辞書』の辞書としての位置づけや山田美妙の読書記録についての質問が出された。

情報共有会:阿曽歩(フェリス女学院大学講師
 例会報告に続いて情報共有会を実施した。今回は、フェリス女学院大学講師の阿曽歩氏が、2024年2月3日に就実大学(岡山県岡山市)で開催された吉備地方文化研究所シンポジウム「蘭学・洋学から近代の日本へ」に参加・発表した内容を報告した。2024年2月3日は本若手部会の2月例会と同日であり、惜しくも参加できなかった会員にとっては、その内容が共有される貴重な機会となった。各演題の概要やシンポジウムの様子のほか、阿曽氏の抱いた所感などが報告された。報告・質疑合わせて30分弱であったが、今後の会員の活動に向けての示唆にも富む、充実した内容であった。

文責・西嶋