洋学史学会若手部会では8月オンライン例会を開催し、2名の会員による研究報告が行われました。以下にその概要を報告いたします。
日時:2021年8月7日(日)14:00〜16:10
報告者①:山本瑞穂(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)
報告タイトル:「文化初年の長崎警衛におけるオランダ商館」
本報告は、近世後期に欧米諸国が接近する中で、幕府がオランダ人を政治的にどのように位置付けていたのかを、長崎奉行による異国船入港手続きと出島防備のあり方から再検討する試みであった。
長崎では異国船が入港する際、役人・商館員・通詞らが立ち会って船籍確認をする「旗合わせ」が行われていた。しかし、文化3、4年の日露紛争、および蘭露関係の悪化に伴い、武力を持たないオランダ人を旗合わせに同席させることが懸念され、旗合わせの方法が見直された。さらに、フェートン号事件でオランダ人が捕縛されたことも相俟って、異国船の入国手続きは大幅に見直されることになった。このように、長崎奉行にとってオランダ人は、情報提供者としての側面のみならず、来航船の国籍によっては、時に保護すべき存在であったことが明らかにされた。また報告者からは、これまで見落とされがちであった蘭露関係も含めて対外関係を見ていく必要性が指摘された。
質疑では、蘭露関係を含めることによる今後の研究の展開について、蘭露関係を見る際には箱館など北の動きも見ていく必要があることなどが議論された。
報告者②:佐々木千恵(早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程)
報告タイトル:「鷹見泉石による情報伝播活動 ―― 大野藩土井利忠を例に」
本報告では、『鷹見泉石日記』に描かれた鷹見泉石と大野藩主土井利忠との交流に着目し、泉石が大野藩の洋学発展に果たした役割について考察がなされた。
鷹見泉石は、数多くの蘭書や筆写地図を所蔵し、それらを知人に頻繁に貸し出していたことで知られる。報告では、利忠のみならず、家臣が代行した交流も含めて分析することで、様々な蘭書が泉石より大野藩に貸し出されていたことが明らかになった。中でも軍事関係や地理学の書籍が多く、これがのちの大野藩による蝦夷地開拓に役立ったと考えられること、また泉石からの多様な書物の貸し出しが、大野藩での洋学関係書物の藩版刊行に影響を与えた可能性があることが指摘された。
質疑では、安積艮斎の影響について、福井藩との関係性について、泉石が情報を提供するメリットについて、貸し出された書物から見る利忠の関心の変遷について議論がなされた。
(文・阿曽歩)