洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【例会実施報告】2022年6月オンライン例会

 洋学史学会若手部会では6月オンライン例会を開催し、研究報告が行われました。以下にその概要を報告いたします。

日時:2022年6月5日(日)14:00〜16:10

報告者①:臺由子(明治大学大学院博士後期課程)
報告タイトル:「佐賀藩における『マガゼイン(Nederlandsch Magazijn)』 の利用」

 本報告では、江戸後期に輸入されたオランダで出版された『マガゼイン(Nederlandsch Magazijn)』(1834~1845、新シリーズ1846~1858)について、佐賀鍋島家の『洋書目録』と武富文之助(圯南)が東京溜池の千住代之助にあてた書翰を史料として、佐賀藩における『マガゼイン』の利用に関する考察がされた。佐賀藩が所有していた『マガゼイン』の所在は不明だが、佐賀藩主の近侍で精錬方の増田忠八郎と、佐賀藩蘭学寮小出千之助の間で『マガゼイン』が利用された可能性があると指摘された。また、武富の書翰から大庭雪斎が『マガゼイン』の朝鮮人参に関する記事を訳させて、その効能を医者に確認させたとの指摘もされた。
 報告後は、フロアから佐賀藩が『「マガゼイン』に注目した背景として、蘭学者の箕作阮甫と佐賀藩の関係について、また『マガゼイン』自体がオランダ国内やフランスなどのニュース媒体(メディア)の記事を編纂して成立していることから、人参の記事についてその元となる記事はどこの国のどのような媒体に掲載されたかについて質疑が行われた。また、佐賀藩が『マガゼイン』を利用した背景には、長崎とのつながりからオランダの書籍に通じていたのではないかとの指摘もあった。


報告②:醍瑚龍馬(小樽商科大学商学部一般教育系准教授)
報告タイトル:「榎本武揚の化学者的特性―石鹸製造への関心を中心にー」

 榎本武揚(1836-1908)が書き記した「石鹸製造法」(国立国会図書館憲政資料室蔵)を出発点に、榎本の化学への関心、化学理解の特徴と思想形成の経過について報告があった。榎本の石鹸製造への関心は、獄中時代(1870~1872)に記された「石鹸製造法」に如実に表れている。この文書には、オランダ語で書かれた石鹸の成分表も含まれている。
 さらに報告者は、所属する小樽商科大学(商大)での共同研究プロジェクトとして、自身のゼミ生とともに「石鹸製造法」を読み解き、化学系の共同研究者およびゼミ生と連携して、石鹸の再現を試みた。今後、大学広報への活用や地域貢献の一環として、「榎本石鹸」の商品化を模索していきたいとの展望も示された。
 「石鹸製造法」や再現した「榎本石鹸」の完成度から、榎本の化学者としての専門性や先進性を見ることができる。こうした化学者的特性は、オランダ留学時代に形成され、「石鹸製造法」を執筆した獄中時代に成熟期を迎えたと考えられる。榎本の関心は、殖産興業を見据えた応用化学にあり、非藩閥政治家ながら明治政府の殖産興業を推進する基盤を形成したと結論づけた。
 質疑応答では、語学学習の背景、プロジェクトで調製された石鹸の市場性、今後の事業展開の可能性などについて議論があった。

 

                             (文・浦部哲郎)