洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【内容報告】2023年8月例会

 洋学史学会若手部会では8月例会を対面・オンライン併用のハイブリッド形式で開催し、研究報告が行われました。以下、その概要を報告いたします。

日時:2023年8月5日(土)14:00〜17:10
開催場所:対面(電気通信大学)、オンライン(Zoom)

報告者①:橋本真吾
報告タイトル「江戸後期・幕末期における西洋人物伝に関する一考察」

 本報告は、江戸時代後期において蘭学者を中心に海外情報収集に従事した知識人らによって西洋人物伝がどのように取り上げられ、紹介されてきたかを、ジョージ・ワシントンとベンジャミン・フランクリンを例に検討した。報告者によれば、西洋人物伝は箕作阮甫による熱心な電気情報の収集と翻訳により徐々に増え始めたとされる。ワシントンに関する言説は、箕作省吾による『坤輿図識』から一定して幕末まで軍人として、あるいは大統領としてアメリカの共和制の父として語られてきたが、明治に入るとその語り方に変化が生じる、と指摘する。フランクリンは同じく『坤輿図識』に登場する一方で、明治以降に広く知られることとなり、近代的な道徳観・人間観を代表する人物として受容されていった、と指摘する。
 参加者からは、ワシントン情報とジョセフ・ヒコの関係、さらには近世における「明君伝」という観点から西洋人物伝がどのような影響を与えたのか等の質疑がなされた。

 

報告者②:塚越俊志(東洋大学非常勤講師)
報告タイトル「熊本藩士岡田摂蔵の「西洋観」」

 本報告は、過去の岡田摂蔵研究について、史料の読み間違えなどに言及したうえで、事実の修正を行った。その上で、岡田が柴田剛中の従者として、フランスやイギリスに渡った意義を4つの点で明らかにした。①岡田が従者として果たした活動について、これは彼のまとめた「航西小記」及び「航西小記」附録に書かれていることから、教育や社会に注目していた点、②慶應義塾の塾長として、教育面の見聞、帰国後に高山紀斎を入社させたこと、③福澤諭吉の『西洋事情』をベースに岡田が「西洋」を実体験して知識をアップデートしていたこと、④熊本藩士としての活動はフランスから国友式右衛門に書簡を送っているほか、帰国後、「出崎生徒之指導」にあたったことなどを明らかにした。
 参加者からは「航西小記」の全国的な広がりや「信義」をどのように捉えるかといった質疑がなされた。