洋学史学会若手部会は7月オンライン例会を開催し、2名の会員による研究報告が行われました。以下にその概要を報告致します。
《7月オンライン例会①》
日時:2020年7月4日(土)14:00~15:00
報告者:堅田智子(流通科学大学商学部講師)
報告タイトル:「ウィーン万国博覧会におけるシーボルト兄弟の役割」
本報告では、『澳國博覧會参同記要』、展示品を収めた写真アルバム、田中芳男が作成した『外国捃拾帖』、アレクサンダーの著作、ブランデンシュタイン城シーボルトアーカイヴ所蔵資料、オーストリア国立工芸美術館により刊行された雑誌などの日独澳に点在する資料を多角的かつ複合的に分析し、ウィーン万国博覧会におけるシーボルト兄弟の役割を考察するものである。従来、シーボルト兄弟と日本の関係は日独関係史のなかで論じられてきたが、日独澳関係史へと広げようとする挑戦的な視座を示すものでもある。
ウィーン万博に関わったアレクサンダー・フォン・シーボルトとハインリッヒ・フォン・シーボルトの役割と連携、彼らによって紹介された日本文化、外交の場という万博の役割を明らかにした。
報告終了後、ブランデンシュタイン城のシーボルトアーカイヴの資料について、『外国捃拾帖』について、オーストリアでの「日本古美術展」についてなどの質問がなされた。また、報告者が研究代表者になっている科学研究費若手研究「世紀転換期における日本イメージの対独発信:広報文化外交と戦時国際法の利用」に対し、期待を寄せるコメントがなされた。
(文・臺由子)
《7月オンライン例会②》
日時:2020年7月18日(土)14:00~15:00
報告者:橋本真吾(東京工業大学非常勤講師)
報告タイトル:「文政後期の海外情報活動と地理書翻訳-高橋景保の北米大陸への関心をめぐって」
本報告は、文政後期に翻訳された地理書がより詳しく、新しい物へと変化した背景を御書物方奉行兼天文方筆頭の高橋景保の「北米大陸への関心」をもとに解明することを目的としたものであった。
ゴロヴニン事件を契機にロシア語研究・北方事情への関心を深めていた景保はゴロヴニン事件の背景に「露米会社」の存在があった事を知る。景保は参府中にド・ストゥルレルやシーボルトとの会合で「北米」の状況を訊ね、シーボルトから贈呈されたジェームズ・タキー『海洋通商地理学』を蕃書和解御用御用訳員であった青地林宗へ北米大陸北西岸部に関する箇所を翻訳させるなど強い関心を持っていたことを指摘した。また、文政後期以降の『輿地誌略』『輿地志』の翻訳には景保の対外関心が反映されており、天文方蕃書和解御用の地理書翻訳において景保のリーダーシップが必要とされていた可能性を示した。
質疑応答では、シーボルト研究の観点からの指摘や「北米」「西北亜墨利加」が具体的に指す場所、翻訳されることとなった地理書の輸入時期についての質問がなされた。
(文・岸本萌里)