洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【2021年2月オンライン例会】内容報告

洋学史学会若手部会では2月オンライン例会を開催し、2名の会員による研究報告が行われました。以下にその概要を報告致します。

《2月オンライン例会①》
日時:2021年2月13日(土)14:00~15:00
報告者:岸本萌里(東洋大学大学院文学研究科博士前期課程)
報告タイトル:「嘉永期の京都警衛における朝廷と幕府の動向について」

 本報告は、嘉永期における公家と海防の関連および朝廷の意思決定の特質という視点で、武家伝奏三条実万の意見書案を中心に朝廷と幕府の京都警衛方針を比較し、両者の海防認識の差異を明らかにしたものである。具体的には、ペリー再来航以後の京都近海の異国船対応策として、幕府は日本海沿岸からの「陸路」での上陸を主に想定していたが、朝廷はより現実的に日本海側と大坂湾の「海路」の双方からの侵入を考慮していた。その背景には、幕府の管轄区分による問題意識の共有の限界や、公家による海外情報に基づいた考察があった。その後プチャーチン大坂湾来航を受け、幕府は「陸路」「海路」双方の警衛を整えていく。
 質疑では、朝廷は京都警衛を主導しようとしたのか、実万と老中との会談の形態が直前に変更されたことについてどう考えるか、会談時の老中の態度は公儀全体を代表するものか、実万はどのような海外情報を求め収集していたか、といった質問が出た。

《2月オンライン例会②》
日時:2021年2月27日(土)14:00~15:00
報告者:藤本大士(名古屋経済大学非常勤講師)
報告タイトル:「19世紀後半の日本におけるアメリカ人医療宣教師と医学教育」

 従来、19世紀後半の日本の医学に関してはドイツ人医師の活動が注目され、アメリカ人医師の存在は見落とされてきた。本報告はこれを踏まえ、アメリカのプロテスタント・ミッションの医療宣教師による医学教育を中心とした日本での活動について検討したものである。
 報告では、アメリカ人医療宣教師により、1859〜60年代には遊学中の諸藩の医師への指導が、70年代には医術開業試験及第を目指す学生への指導が行われたが、80年代には日本の公立医学校の整備に伴い、彼らが医学教育を行わなくなるという変容が起こったことが示された。一方で、女性医療宣教師が80、90年代にミッションスクールの女子学生を教育していたことが報告された。
 質疑では、アメリカ人宣教師全体に占める医療宣教師の割合、アメリカ医学の特徴、明治初期における宣教活動の難しさなどが問われたほか、当時拡大しつつあったアメリカによる日本への宣教師派遣をどう評価するかといった質問が出た。

                             (文・山本瑞穂)