洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【例会実施報告】2022年10月例会報告

 洋学史学会若手部会では10月ハイブリッド形式(対面・オンライン)にて例会を開催し、研究報告が行われました。以下、その概要を報告いたします。

日時:2022年10月1日(土)13:30〜16:50
開催場所:対面(東京大学駒場キャンパス)、オンライン

報告者①:西脇彩央(京都大学大学院教育学研究科博士後期課程)
報告タイトル:「吉田清成と⻄南戦争―通信面を踏まえて―」

 本報告は1877年に勃発した西南戦争について、駐米公使・吉田清成(1845–1891)が発信/受信した情報を比較検討することで、彼が郷里で起こった戦争をどのように捉えていたのか考察した。
 アメリカにいた吉田の情報入手・発信手段は、知人との書簡や外務省からの公信、新聞記事や、渡米する人物を介した伝言であった。特に西南戦争について、外務省から戦況を報告する公信、義父である志村智常等からの私信、公使館が購入していた新聞記事によって吉田は情報を集めていた。吉田は西南戦争を引き起こした薩軍について、「薩賊」「暴徒」といった厳しい見方を見せていた。一方西郷隆盛が首謀者ではないといった吉田の発言が英字新聞に掲載されており、西郷の関与を信じ難く思う心情が見られた。
 質疑では、当時の日米関係において吉田の駐米公使としての役割、公人あるいは私人としての吉田の情報収集の立場、アメリカ側が求めた情報などについて議論された。また吉田からの書簡の現存状況について質疑応答が行われた。
                             (文責・武正泰史)

報告者②:増田友哉(東北大学大学院文学研究科博士後期課程)
報告タイトル:「佐藤信淵の宇宙論―洋学的天文知識の国学思想への影響をめぐって―」

 本報告は近世後期、知識人の間に広がった天文知識が国学思想に与えた影響を佐藤信淵に注目して検討したものである。佐藤は著作『天柱記』において神話の再解釈により宇宙が創造された根本理由を求め、西洋天文学が明らかにした宇宙の在り方が日本古来の神話等の記述と矛盾していないと結論づけた。それは暦学者の実学的関心とは違った「宇宙がなぜあるのか」という宗教的アプローチでもあった。西洋天文学は近世後期、蘭学者はもちろん国学者にも宇宙観のパラダイムシフトを齎すものであったが決して対立する存在ではなかった。報告者は天文知識が「国学的宇宙論」に与えた影響を明らかにし再評価すべきと論じている。
 フロアからは元来経済学者として紹介される佐藤信淵の天文学との関わりについて、天文学を説明する際、数理科学は応用されていたか、人的交流、長崎との関係性、平田篤胤とのアプローチの相違等についての質疑がなされた。

報告者③:報告者③:山本瑞穂(東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程)
報告タイトル:「近世後期の船籍問題にみる幕府対外政策―近藤重蔵の活動を中心に」

 本報告は近世後期、海防的見地から外国船の船籍確認の必要性が生ずる中で行われた船旗図の収集活動の意義を問い、その位置づけを考察するものである。収集活動の中心となった幕臣近藤重蔵は寛政8(1796)年、文化5(1808)年の2回に亘り海防の一助として旗図の設置を企図した。近藤以外にも長崎奉行、オランダ通詞、蘭学者等が船籍確認の必要性を認識し、旗譜の書写を行う者もいた。近藤等による旗譜に注目した活動の意義を幕府内部の勢力や対外政策の変化の中で捉え、欧米諸国における船籍承認の法的基準もふまえながら検討がなされた。
 フロアからは旗を揚げる船に関して商船と軍艦の区別がなされていたか、国家の旗に対する認識、国旗と海軍旗の区別、松平定信政権下における海防に対する積極性の影響等について質問・指摘があがった。
                            (文責・西留いずみ)