洋学史学会若手部会

洋学史学会に所属する大学院生・学部生を中心とする若手部会です。

【開催案内】洋学史学会若手部会10月例会

洋学史学会若手部会では10月例会を開催します。
ご関心のある方はふるってご参集ください。

【洋学史学会若手部会10月オンライン例会】
日時:2022年10月1日(土)13:0013:30〜16:50
会場:参加者にURL配布
事前登録制、登録はこちらから。
※9月29日(木)18:00申込締切。
回答後に変更が生じた場合、期日までにフォームを編集するか、洋学史学会若手部会運営(yogakushi.wakate@gmail.com)まで直接、ご相談ください。

報告者①:西脇彩央(京都大学大学院教育学研究科博士後期課程)
「在米公使館をめぐる通信環境と情報活動―吉田清成公使と西南戦争に注目して―」(仮)

〈報告要旨〉
 吉田清成(1845-1891)はその駐米公使時代(1874-1882)、外務本省との公信のやりとりだけでなく、多くの私信を取り交わし、日米の政治状況を含む多岐にわたる情報を発信・受信していた。通信相手としては寺島宗則や大隈重信等の日本政府関係者や、日本にいる吉田の身内、また米国内外のアメリカ人が挙げられる。
 本報告では、当時の通信事情を把握した上で、吉田がいかなる情報をいかに発信/受信していたのか、また公使という彼の立場を踏まえ、その情報活動はどのような意味を持ったのかを考察する。今回は特に、1877年に勃発した西南戦争に注目する。吉田の公信・私信とともに、日米の新聞記事、さらに駐日米国公使から米政府への公信を用い、西南戦争に関し、米政府の認識や米国社会で流布した情報と、吉田が得た情報及び吉田の発信した情報を比較検討する。
〈参考文献〉
有山輝雄『情報派遣と帝国日本Ⅰ』吉川弘文館、2013年。

報告者②:増田友哉(東北大学大学院文学研究科博士後期課程)
「佐藤信淵の宇宙論―洋学的天文知識と国学思想の融合―」(仮)

〈報告要旨〉
 本報告は、江戸後期の国学者である佐藤信淵(明和六年-嘉永三年・一七六九-一八五〇)の宇宙論において、洋学由来の天文学知識がどのように活用されたのかを『天柱記』(文政五~八年頃成立)を題材として検討する。そして、近世後期社会を生きた信淵における、国学思想と「科学」知識の奇妙な融合によってこそ、宇宙始まりの物語が創造され、その成り立ちを語る事が可能となった事を明らかにしたい。そもそも国学と洋学、特に天文学との関係は、本居宣長が仏教の世界観を否定するために天球説を援用する等、対立的な存在ではなかった。洋学を本格的に受容した信淵は、更に進んで、西洋天文学が明らかにした宇宙の在り方や法則が『古事記』等の神話と矛盾なく一致すると考えた。そのため信淵は、西洋天文学が明らかにした自転や公転、太陽系の配置といった知識と神々の物語を組み合わせた宇宙論を創造するのである。本発表は、従来の研究が非科学的迷妄として取りこぼした信淵の宇宙論を、国学思想が生んだ始原を語りうる宇宙論として再評価することを目的とする。
〈参考文献〉
中山茂『日本の天文学―西洋認識の尖兵―』(岩波書店、1972年)。
佐藤信弘『天柱記』(尾藤正英、島崎隆夫校注『安藤昌益 佐藤信淵』日本思想大系四五、岩波書店、1977年)。
上田晴彦「『天柱記』における地動説に関する考察及び太陽図に関する調査研究について」(『秋田大学教育文化学部研究紀要 自然科学』六八集、23–30頁、2013年)。
池内了『江戸の宇宙論』(集英社、2022年)。

報告者③:山本瑞穂(東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程)
「近世後期の船籍問題における旗図の役割」(仮)

〈報告要旨〉
 本報告は、近世後期における船旗図の収集活動を、国内外の政局の変化の中に位置付けることを目指す。19世紀前半の欧米諸国による日本接近に伴い、幕閣・長崎奉行・沿岸諸藩・オランダ通詞・洋学者らは異国船の国籍の判別手段の必要性を認識し、中にはオランダ商館を通じて旗譜の収集・書写を行う者もいた。当時幕府において西洋の地理書・歴史書の収集・活用を推進したのは若年寄堀田正敦だとされるが、本報告では彼のもとで働いた幕臣の近藤重蔵の活動に着目する。重蔵は寛政8年(1796)と文化5年(1808)の二つの時期に、欧米の船旗図を異国船対応に活用することを目指した。その意義について、幕府内部の勢力図および対外政策の変化に即して、また西洋諸国における船籍承認の法的基準もまた19世紀を通して形成されていったという経緯に留意しながら検討する。
〈参考文献〉
東京大学史料編纂所「正斎日記」(S近藤重蔵関係資料-2-43)。
岡宏三「長崎出役前後における近藤重蔵―人的関係を中心に―」(『青山学院大学文学部紀要』34、1993年)。
松田清「楽歳堂洋書と幕府天文台」(『洋学の書誌的研究』、1998年)。
藤田覚『近世後期政治史と対外関係』(東京大学出版会、2005年)。
横山伊徳『開国前夜の世界』(吉川弘文館、2013年)。